
遺留分侵害額請求とは?
以前は「遺留分減殺請求」という制度でしたが、現在は「遺留分侵害額請求」という制度となっています。
この記事では、遺留分侵害額請求について解説します。

被相続人(亡くなった人)は、原則として、自分の財産を自由に処分できます。
しかし、兄弟姉妹以外の相続人には、被相続人の財産の一定割合を取得することが法律上保障されています(民法第1042条以下)。
これを「遺留分」といいます。
遺留分制度は、遺族の生活保障といった目的があり、被相続人の財産処分の自由と相続人の利益との調整を図る機能があると考えられています(最高裁判所平成13年11月22日判決)。
最高裁判所平成13年11月22日判決
「遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るものである。」
ただし、遺留分という制度に批判的な見解もあるところです。
遺留分を侵害されている相続人が遺留分権を行使することを「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分侵害額請求によって、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求める権利(金銭債権)が発生します。
遺留分侵害額請求は、被相続人が死亡して相続が開始されるまで行うことはできません(大審院大正6年7月18日決定)。
遺留分が認められている相続人を「遺留分権利者」といいます。
遺留分権者は以下のとおりです。
・配偶者
・子、子の代襲相続人
・直系尊属(父母、祖父母など)
兄弟姉妹は遺留分権利者に該当しません。
これは、兄弟姉妹は血縁関係が遠く、生活関係も離れているからであるといわれています。
遺留分の割合には、遺留分権利者全員に残されるべき相続財産全体に対する割合(総体的遺留分)と遺留分権利者個々人に残されるべき割合(個別的遺留分)があります。
総体的遺留分は、直系尊属のみが相続人である場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1と定められています(民法第1042条第1項)。
第1042条
1 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
① 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
② 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
個別的遺留分は、総体的遺留分に法定相続分を乗じることで算出されます(民法第1042条第2項)。
第1042条
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
以上をまとめると、個別的遺留分は次のようになります。
| 相続人の状況 | 個別的遺留分 |
|---|---|
| 配偶者のみ | 2分の1 |
| 配偶者と子 |
配偶者4分の1 |
| 配偶者と直系尊属 | 配偶者3分の1直系尊属6分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者2分の1兄弟姉妹なし |
| 子のみ | 2分の1 |
| 直系尊属のみ | 3分の1 |
| 兄弟姉妹のみ | なし |
※子や直系尊属が複数いる場合は、上記の割合を頭数で除することになります。
各人の遺留分額は、次のように算定されます(民法第1042条)。
遺留分額=遺留分算定の基礎となる財産×個別的遺留分の割合
遺留分算定の基礎となる財産は、次のように算定されます(民法第1043条、第1044条、第1045条)。
遺留分算定の基礎となる財産
= 被相続人が相続開始の時において有した財産の額
+ 相続人に対する相続開始前10年以内の特別受益としての贈与の額
+ 相続人以外に対する相続開始前1年以内の贈与の額
- 被相続人の債務の額
遺留分侵害額は、次のように算定されます(民法第1046条)。
遺留分侵害額
=遺留分額
-遺留分権利者が受けた遺贈及び特別受益としての贈与の額
-遺留分権利者が取得すべき遺産の額
+遺留分権利者が承継する債務の額
遺留分侵害額請求に関しては、以下のとおり2段階の期間制限があります。
遺留分侵害額請求権には次のような期間制限があります(民法第1048条)。
第1048条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
つまり、次のいずれかの期間が経過すると、遺留分侵害額請求を行うことができなくなるということです。
・遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年
・相続開始の時から10年
この期間内に遺留分侵害額請求を行うことで、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求める権利(金銭債権)が発生します。
特に、「遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年」というのはあっという間に過ぎてしまうので注意が必要です。
遺留分侵害額請求によって、遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生しますが、この金銭債権にも次のような期間制限があります(民法第166条第1項)。
・権利を行使することができることを知った時から5年間
・権利を行使することができる時から10年間
以上の期間を経過すると、金銭債権は時効によって消滅します。
遺留分侵害額請求の意思表示は裁判外で行うことが可能です(最高裁判所平成41年7月14日判決)。
遺留分を侵害している相手方に対して、通知書を送付する方法によることが多いです。
通知書が相手方に到達したことを立証できるように、配達証明付内容証明郵便を利用するとよいでしょう。
遺留分侵害額請求の通知書の文例は次のとおりです。
遺留分侵害額請求書
東京都荒川区●町●丁目●番●号
荒川太郎 殿
令和●年●月●日
東京都渋谷区●町●丁目●番●号
通知人 渋谷花子 印
被相続人足立一郎は、令和●年●月●日付け公正証書遺言により、貴殿に対し、全ての財産を相続させる旨の遺言をなし、令和●年●月●日に亡くなりました。
しかし、上記遺言の内容は、通知人の遺留分を侵害しています。
よって、通知人は、貴殿に対し、本書をもって遺留分侵害額の請求をします。
以上
遺留分に関する紛争については、「家庭に関する事件」として、家事調停を申し立てることができます(家事事件手続法第244条)。
第244条 家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか、この編の定めるところにより審判をする。
そして、家事調停を行うことができる事件については、原則として、訴訟を提起する前に家事調停を経なければならないとされています(調停前置主義。家事事件手続法第257条第1項)。
第257条
1 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
したがって、遺留分侵害額請求について、当事者間で協議がまとまらない場合、まずは家事調停を申し立てることになります。
ただし、実務上は、家事調停を申し立てることなくいきなり訴訟を提起することが許されるケースも少なくありません(家事事件手続法第257条第2項ただし書)。
家事調停がまとまらない場合などには、地方裁判所又は簡易裁判所に、民事訴訟を提起して解決を図ることになります。
相続に関してご自身が受け取った財産が遺留分に満たない場合、遺留分侵害額請求を検討することになります。
遺留分侵害額請求にあたって特に注意しなければならないのは期間制限です。
権利が消滅してしまわないようスピーディーに対応する必要があります。
遺留分侵害額請求でお悩みの方は、弁護士にご相談ください。